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​【雨より冷たく】

 私は人の内面を描きたいと思う。

 絵画はフィクションではなく、実際に自分の身に起こったこと、感じたことを描くものと考えていたけれど、自分の作品を見てみると、どこまでが実際に経験したことで、どこからが絵画の中の出来事なのか、明確に言い表すことができない。考えてみれば、フィクションというもの自体が、現実と虚構の入り混じったものである。あるいは作品は、今までの経験や感情を込める以前に、色と形によって画面と対話することで、出来上がってしまうものだ。

 展覧会「雨より冷たく」は、私が経験した、ごく個人的な一連の出来事がもとになっている。失恋するまでと失恋してから、それに纏わる感情。それらはすでに、過去になりつつあるのだが、絵にするのには、心を落ち着かせるための時間が少し必要だった。何かを失い、それでも容赦なく月日は流れ、無理をして自らを生活にねじ込まないといけない。そんな経験が、今回の絵の始まりになっていると思う。

2019

「雨より冷たく」展のためのステートメントを加筆修正したもの

​坂口 裕美

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